下記記事は、平成22年9月から10月にかけて、弊社代表が税理士新聞に寄稿したものです。税理士に向けた内容のものですが、一般の方も知っておいた方がいい知識として、掲載します。
(1)不動産鑑定評価とは
不動産の価格は、りんごなどの一般財とは異なる特殊な要因を内在しており、一般の人が不動産の時価を判定することは容易ではありません。そのため、不動産鑑定士という専門資格者をして、不動産の価格を査定させる制度が不動産鑑定評価なのです。
不動産鑑定評価に基づく価格は、評価過程や形式等に誤りがない限りにおいては合理的な時価となり得るものですが、誤りや不合理性がある場合には、その結論である鑑定評価額も正しくないと推認される可能性があります。
出てくる不動産鑑定評価書は必ずしも均一の品質ではなく、レベル差があるのは紛れもない事実ですので、注意が必要です。
(2)土地評価との異同
財産評価基本通達に基づく土地評価も時価を求めている点において鑑定評価と変わりはありません。しかし、下表の諸点において両者は相違しており、この違いを理解する必要があります。特に、「結論の相違」です。結論である土地価格については、財産評価基本通達に基づく場合、原則的には一致します。これは、判断要素を極力排除した計算によるためです。
一方、鑑定評価の結論は現実的には一致することはほとんどありません。なぜならば、鑑定評価の本質は不動産鑑定評価基準に明記されているとおり「不動産の価格に関する専門家の判断であり、意見である」からです。
不動産の鑑定評価には鑑定評価基準という評価基準がありますが、これはいわば骨子を示しているに過ぎず、細かな数値は一切明記されていません。したがって、例えば角地の加算率が3%なのか5%なのかは、担当する不動産鑑定士の判断領域なのであって、これでなければいけない、というような数値は一切ないのです。そのため、複数の不動産鑑定士に同じ土地の鑑定評価を依頼すると、複数の結論が出てくるといった事態が生じますが、これは、鑑定評価は個々人の判断である以上、むしろ当然の帰結なのです。
【相違点】
土地評価 | 鑑定評価 | |
評価担当者 | 税理士 | 不動産鑑定士 |
評価基準 | 財産評価基本通達 | 不動産鑑定評価基準 |
判断要素 | ほとんどない | ある(ほとんどが判断) |
数値基準 | ある | ない |
結論の相違 | 原則は生じない | 現実的には一致することはほとんどない |
価格の性格 | みなし時価 | 時価 |
(3) みなし時価の注意点
財産評価基本通達で求めた時価は税務上の規定に基づくものであり、『みなし時価』として認識すべきです。みなし時価は、あくまでも税務上は時価とみなされるということであり、これが本来の時価と同じになる根拠は有していないことから、次の点に注意しなければいけません。
①税務上は平等の遺産分割をしたつもりでも、現実には(本来の時価ベースでは)不平等の遺産分割となってしまっている可能性がある。
②時価がみなし時価を下回っている場合に、みなし時価に基づき申告すると、過大納税として専門家責任を追及される可能性がある。
したがって、財産評価を行う際には、財産評価基本通達によるみなし時価でいくべきなのか、本来の時価を求めるべきなのかを見極める必要があります。
(4)財産評価基本通達以外の評価方法は認められるか?
財産評価基本通達は法律ではなく、あくまでも時価の算定方法の指針を示したものにすぎません。したがって、財産評価基本通達は基本的計算方法であるものの、以下のとおり、それ以外の評価方法も認められる可能性が高いのです。
通達の内容が法令の趣旨に沿った合理的なものである限り、これに従った課税庁の処分は、一応適法なものであるとの推定を受けるであろうし、逆に、課税庁が、特段の事情がないにもかかわらず、通達に基づくことなく納税者に対して不利益な課税処分を行った場合には、当該処分は、租税法の基本原理の一つである公平負担の原則に反するものとして違法となり得るというべきである。
しかしながら、通達の意義は以上に尽きるものであり、納税者が反対証拠を提出して通達に基づく課税処分の適法性を争うことは何ら妨げられないというべきであり、その場合には、通達の内容の合理性と当該証拠のそれとを比較して、どちらがより法令の趣旨に沿ったものであるかを判断して決すべきものである。そして、本件で問題となっている(相続税)法22条の時価は、不特定多数の者の間において通常成立すべき客観的な交換価値を意味するから、通達評価額が、この意味における時価を上回らない場合には、適法であることはいうまでもないが、他の証拠によって上記時価を上回ると判断された場合には、これを採用した課税処分は違法となるというべきである。(平成16年8月30日、名古屋地裁平15(行ウ)10号)
ここで重要なのは、上記判例のいう「他の証拠」とは何かですが、これは、不動産であれば、不動産鑑定評価を指すため、ここに税理士が鑑定評価の活用方法を理解しなければならない必然性があるのです。